はぐれ道中~旅情編~

時の止まる場所でどっぷり浸る、懐かしさと癒しの旅路

人生と旅路(4) 敗北の先に見つけたもの

道道美唄富良野線(2024年8月26日 開通)

若い頃、東京への夢を捨て地元に就職したが、事務机に向かう日々が続くと、果たしてこのまま人生が終わってしまうのかという、そんな焦りばかりが考えを占めるようになっていた。

日々のルーチンに追われながらも、転職を考えて自己啓発セミナーに通ったり、様々な教材や本を手に取ったが、振り返ればその努力も虚しいものだった。鏡に映る今の自分を見れば一目瞭然、何も変わっていない。変わるべきだと思っていたその自分が、いまだに変わらずそこにいるだけだ。

成功哲学で知られるナポレオン・ヒル博士が語った「思考は現実化する」。あの言葉に引き寄せられたが、現実はそう甘くはなかった。もし頭の中で思い描いたことがそのまま現実になるのなら、犯罪者だって成功者と呼ばれることになるだろう。それは単なる成功とは言えない。俺はいつしか、成功という言葉の裏に潜むものに疑念を抱くようになった。

俺たちは、いつも成功を私欲や損得で測ってしまいがちだ。その結果、他人を犠牲にしてしまったり、人間関係に亀裂を生んだりすることもある。では、どうすれば自分も周囲も喜びを感じながら、調和した関係を築けるのか。俺は、40歳を過ぎてから、ようやく気づきだしたことがある。答えは心の奥底にある「愛」なのだ、と。

俺のような男にとっては馴染まない言葉であることは、百も承知だ。だが、中年を過ぎた今、敗北ばかりしてきた人生を振り返ると、いつもエゴを優先させてきた自分がいた。だから当然のように、今の自らの運命を引き寄せていた。これが結果である。

しかし旅をしていると、特に北海道の広大な風景を見渡しながら車を走らせると、ふと自分がこの広い世界のほんの小さな一部でしかないことに気づく。そして、その気づきの中で、俺の心の奥底ある「愛」が少しずつではあるが姿を現し始めた。

道路沿いを歩いていたキタキツネ

数々の不摂生がたたって、俺は高血圧になり、通風も患った。昨年には心臓の手術を受け、命の危険を感じた瞬間もあった。今思えば、人生の折り返し地点はとっくに過ぎているのだろう。若い頃にはそんなこと考えもしなかったが、時間は確実に過ぎていく。すべてが変わらないまま進むと思っていた自分も、今では残りの時間を数えるようになった。

だからこそ、俺は少しでも、エゴに振り回されることなく、生きていきたい。俺の旅は、もしかすると、その心の奥底にあるものを見つけるためのものなのではないだろうか。長い時間をかけて遠回りをしてきたが、旅を通して、ようやく心の本質に触れた気がする。

これからの旅路がどう続くかはわからない。それでも、今は少しずつでも、これ意識しながら生きて行く覚悟はできている。北海道は紅葉の季節が目前に迫っている。あの美しい色彩が山々を染める光景を眺めながら、またドライブが楽しくなるだろう。道が続く限り、旅もまた続いていく。自然の色彩が濃くなるこの時期こそ、心の旅路も一層深まっていくはずだ。