はぐれ道中~旅情編~

時の止まる場所でどっぷり浸る、懐かしさと癒しの旅路

記憶の断片(3)浜醤油まんじゅうの甘さに包まれて

ホテル恵風オリジナル「浜醤油まんじゅう」

 

恵山から帰ってきた翌日、全身に残る疲労感を感じながら、手に取ったのはホテル恵風オリジナルの「浜醤油まんじゅう」。異日常とも言うべき時間を過ごしたあの場所を思い出すきっかけとなった。まんじゅうのほんのりとした甘さが、体の奥底に染み込むように広がり、まるで恵山の静けさが再び戻ってきたかのようだ。

恵山での滞在はまさに「異日常」だった。狭く曲がりくねった道を進む中、耳に響くのは静かな波音。自然の中に溶け込んだ自分を感じると、普段の日常とは違う感覚が体に浸透していく。天然温泉の湯は少し熱めで、湯船に浸かればすぐに体全体が包み込まれるように温まり、時間がゆっくりと流れていくのがわかる。まるで自然そのものが全てを支配しているかのような場所で、エゾシカの姿がちらりと見えるたび、その静かな存在感が非日常ではなく、異日常の世界へと引き込んでくれる。

この土地特有の風景や音、匂い、感触――それらすべてが、自分を異日常の色で染め上げていく。その色に身を委ねた時、普段とは違う感覚に心地よさを覚えた。そして、浜醤油まんじゅうの甘さに包まれながら、またいつかこの異日常の世界に戻りたいという思いが静かに芽生える。