はぐれ道中~旅情編~

時の止まる場所でどっぷり浸る、懐かしさと癒しの旅路

味わいの旅路(6)西新宿の隠れた時間【カブト・西新宿】

 

カブト

新宿の大ガードから西口に向かう途中の路地に、にぎわいを見せる飲み屋街がある。

通称「ションベン横丁」。ここは、戦後の闇市の時代から時を刻み続けた、雑多なエネルギーに満ちた街角だ。

その一角に、ひと際人々の足を引き寄せる老舗がある。名は「カブト」。

店頭に立つと、どこか懐かしさが漂い、過ぎ去った時代の息遣いが微かに聞こえてくる。

「ひととおり」と呼ばれる、うなぎの全てを味わう一皿。

炭火でじっくりと焼かれたうなぎの香ばしい香りが、狭い店内に漂い、自然と客たちの心を解きほぐしていく。

肝、しっぽ、背、そして蒲焼き――一つ一つに、職人の手が込められており、その深い味わいに舌が踊る。

そして、この店で出会ったもう一つの驚き。それが「キンミヤ焼酎」だ。

透明な焼酎に梅シロップを静かに注ぐ。口の中に広がるまろやかな甘酸っぱさと焼酎の深い味わいが絶妙に調和し、飲むたびに体がほぐれていく。

シンプルながら、これが「カブト」で味わうべき一杯の魅力だ。雑然とした空間の中に、不思議な静けさがあり、飲むほどに体がほぐれていく。

隣に座った見知らぬ人と、自然と会話が生まれる。肩を寄せ合いながら、言葉の隙間に焼き網から上がる音が交わる。

それはまるで、この狭い空間が作り出す一瞬の連帯感。誰もが孤独を抱えつつも、ここでは一時的にその孤独が溶け合う。

「カブト」は、ただの居酒屋ではない。この店は、時代を超えて続く、街の歴史そのものだ。