はぐれ道中~旅情編~

時の止まる場所でどっぷり浸る、懐かしさと癒しの旅路

味わいの旅路(20)街角の小さな聖地【ひのでそば・札幌】

ひのでそば・天玉そば(札幌)

1971年、札幌オリンピックの直前に開店した「ひのでそば」は、大通駅のすぐ近くに位置する立ち食いそば屋だ。

俺は予備校生時代から、小腹がすいた時に、立ち寄っていたので、もう約30年もの付き合いになる。

店内では、厨房を仕切るおばちゃんたちの見事な連携で、どんなに混んでいても、注文から15秒も経たずにそばが出てくる。その光景は、今も昔も変わらないものだ。

かけそばの汁はシンプルだが、思わず飲み干してしまう旨さがある。ソウダガツオとムロアジを使った出汁の深い味わいが、その秘訣だろう。一手間かけた出汁が、素朴なそばに深みを与えている。

北海道で立ち食いそばを続けるのは容易ではない。交通網の限られた車社会や厳しい冬の寒さなど、首都圏とは異なる条件がある。

それにもかかわらず、「ひのでそば」は、地元の人々や観光客にとって、北海道における立ち食いそばの聖地として愛され続けているのだ。

予備校生時代を振り返ると、俺はほとんど毎日麺類を食べていた。ラーメン、立ち食いそば、焼きそば…とにかく麺ばかりだ。

田舎育ちで、しかも寿司屋の息子として寿司ばかり食べて育った俺にとって、札幌で出会った多種多様な麺類は、未知の世界だった。

日々麺類ざんまいの予備校生だったが、食べるたびに新鮮な喜びを感じたものだ。特に「日の出そば」は、札幌での立ち食いそばの聖地であり、俺にとっても心の拠り所のような存在だ。