祖父は三菱美唄炭鉱の炭鉱マンだった。幼い頃、祖父の膝に座って聞かされたのは、暗い坑道での過酷な労働と、仲間たちとの固い絆の話だった。炭鉱という場所は、男たちの汗と命を吸い込む無言の巨人だったが、祖父にとっては誇りだったのだろう。酒を手にしながら、祖父は時折目を細め、懐かしそうにその時代を語った。
しかし、炭鉱の火は次第に消え、時代はその熱を冷ました。国の政策に翻弄され、閉山が決まると、祖父は労働組合で反対運動に積極的に関わった。「一つの時代が終わろうとしている」と、祖父は悟っていたように思う。しかしそれは、炭鉱マンたちの誇りを守ろうとする最後の抗いでもあった。
美唄の炭鉱が閉じられると、多くの景色は消えた。かつて坑道の光があった場所は、今やただの静かな大地となった。しかし、炭鉱の歴史は、国鉄解体や郵政民営化といったその後の国策の波に重なり続けている。労働者たちの声とその犠牲は、同じように響き続けたのだ。
祖父は最後、肺がんでこの世を去った。その肺は、炭鉱で吸った煤の記憶をそのまま体に刻んでいた。しかし、祖父が語った物語は決して埋もれることはない。炭鉱という一つの時代が、消えた景色の中で、静かに息づいているのだ。