どこか遠い過去へと時間が巻き戻されたような場所が、国道沿いに静かに佇んでいる。
その名は「かに太郎」。訪れたのは、白老町。
店の前に広がる太平洋の大きな海原に、自然と心が解き放たれる。
そしてその場所に、30分前に到着したのは偶然だったが、それが後に、まるで何かに導かれたかのように思えた。
店の前には、すでに数組の人々が列を作っている。
その姿を見て、ふと、「これが日常の一幕なのか、それとも旅の一部なのか」という問いが胸に浮かんだが、答えは求めず、列の最後尾に並んだ。
店の建物は、昭和の時代からそのまま取り残されたかのような古びた佇まい。時間がここだけを置き去りにしたようだ。
黙々と仕込みを続ける店主の姿が窓越しに見え、その手から漂う炊き込みの匂いが、風に乗って鼻をくすぐる。
やがて開店時間が近づくと、次々と訪れる客たちが、店を満たしていった。
そして、列は長くなり、後ろの客が断念して引き返すのを横目に、自分は幸運にも店内へと足を踏み入れることができた。
店に入った瞬間、懐かしさとともに、どこかしらの温かさが全身に広がっていく。
名物の「かにめし」が目の前に置かれる。
その見た目は、まるで何の飾りもないかのように素朴だ。
だが、箸を入れ、一口頬張ると、カニの豊かな旨味が口の中に広がり、タケノコの軽やかな食感が追いかけてくる。
シンプルだが、それはきっと、何か大切なものを思い出させるための味なのだろう。
心地よい満足感に包まれながら、気がつけば、いつの間にか完食していた。
昭和の雰囲気がそのまま残る店内に、店主の温かい声が響く。
「また来てね」と笑顔で送り出される時、まるで長旅の終わりに友に別れを告げるような不思議な安心感が胸に広がった。
「かに太郎」は、ただの店ではない。
その佇まいはまるで、時が止まったかのようでありながら、訪れる人々に何か大切なものを思い出させ、そっと心を癒してくれる。
廃業したと誤解されることもあるようだが、この店は54年もの間、変わらぬ味と人の温もりを守り続けている。
地元の人々、そして旅人たちの心に、この一皿がいつまでも残ることだろう。