はぐれ道中~旅情編~

時の止まる場所でどっぷり浸る、懐かしさと癒しの旅路

味わいの旅路(27)【焼肉居酒屋 五衞門・旭川】

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旭川の焼肉居酒屋「五衛門」。

年季の入った店内は、どこか昭和の面影を残しており、まるでタイムスリップしたかのような感覚になる。

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店内は煙が充満しているが、その中で客たちの笑い声がBGMのように聞こえてくる。煙と客の笑い声…この空気感こそが「五衛門」ならではだ。

座敷に足を踏み入れると、微かに床が傾いていることに気付く。通常なら気になるかもしれないが、ここではむしろ、その歪みすらも 「 五衛門」の風情の一部だ。

手慣れた様子の店員が親しげに席を案内してくれるが、その店員の対応もまた、どこか心地良く、気がつくと「 五衛門」の空間に溶け込んでいる自分がいた。

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「ホルモン、脾臓、タンをお願いします。」

まずは好物のホルモンだ。噛むごとに広がる旨みと、脂の甘さが口いっぱいに広がる。脾臓も柔らかく、しっかりとした食感が楽しめる。タンは程よい塩気が効いていて、シンプルながら一口で焼肉の醍醐味を感じさせる。

でも、驚くべきは、その価格だ。これだけの味を、こんなに安く楽しめるなんて、東京のような都会ではまず考えられないだろう。

また、旭川といえば男山酒造の地酒が、ホルモンと抜群のマリアージュだ。冷たい酒が喉を通るたびに、酔が巡って心地よくなる。

気付けば、時間はあっという間に過ぎている。2時間も過ごせば、服には煙の匂いがすっかり染みついてしまう。しかし、不思議とその香りさえも愛おしい。この匂いをまとって外に出ると、しばらくの間「五衛門」の余韻が続くようで、またいつかこの席に戻ってきたいと思わせてくれるのだ。

満足感に満ちた帰り道、夜風が心地よく、旭川の街灯が優しく照らす。焼肉の煙と酒に包まれた夜、心も身体も十分に満たされた。

記憶の断片(6)大阪もちまろ菓

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俺は甘いものをあまり食べない。子供の頃、虫歯の治療で大泣きした経験があり、それ以来、自然と甘いものを避けるようになった。中でも和菓子はほとんど口にすることはないのだが、この「大阪もちまろ菓」だけは別だ。

口に含んだ瞬間、ふわっと広がる上品な甘さと、もちもちとした独特の食感に驚かされる。甘すぎず、それでいて優しい甘みが口いっぱいに広がり、自然ともう一つ手を伸ばしたくなる。和菓子に苦手意識があった俺ですら、この「もちまろ菓」だけは一度食べると忘れられない魅力がある。

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「大阪もちまろ菓」は、厳選された素材と技術の結晶だ。皮には最高級の北海道産小麦粉と国産もち米が練り込まれ、これがあのもちもち食感を生み出しているのだ。

そして、こだわり抜かれたミルク餡がまた素晴らしい。この餡にはさぬき和三盆糖が使われている。この砂糖は、讃岐地方の限られた地域でしか栽培されないサトウキビから作られる貴重なもので、上品でまろやかな甘さが特徴だ。

この餡を作り上げるために、製造者たちは約2年もの間、試行錯誤を重ねたという。その結果、和三盆糖の繊細な風味が皮と餡のバランスの中で見事に調和している。甘さが決してしつこくないのも、このこだわりの賜物だろう。

大阪の新たなお土産として、この「大阪もちまろ菓」はこれからますます注目されるに違いない。食い倒れの町・大阪にふさわしい一品だが、俺のように甘いものが苦手な人にもぜひ試してほしいものだ。

博打の美学(2)平和島のマルキン

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博打というものは、単なる金銭のやり取りではなく、その背後にある人間模様や瞬間の判断、そして時に風変わりなキャラクターとの出会いによって彩られる。平和島競艇場に足を運ぶ者にとって、予想屋マルキンの存在はその一つの象徴だ。

マルキンの江戸弁での軽妙な語り口、選手にまつわる小ネタ、そしてその場の空気を沸かせる巧みさは、まさに娯楽としての博打の魅力の一端を担っていると言えるだろう。

的中率がどうであれ、マルキンの予想は百円。賭け金のようであり、どこか大道芸に投げ銭をする感覚にも近い。その場の雰囲気を楽しみ、ひと時の緊張感と笑いを共有する。それもまた、博打の哲学であり美学である。

マルキンの口上は、もはや平和島競艇場の風物詩と言っても過言ではない。単に予想を述べるだけではなく、作り出される独特の空気感、笑いと知恵が交錯するその場の雰囲気は、舟券を買う行為以上の楽しみを提供している。マルキンを目当てに足を運ぶ常連客も少なくないだろう。その口上は、競艇の緊張感を和らげつつ、同時に賭けに対する期待感を煽り立てる巧みな芸術と言える。

博打の哲学というものは、時に「勝ち負け」を超えたところに存在する。予想が的中するかどうかではなく、その過程でどれだけ楽しめたか、そしていかにその場の空気を感じられたか。マルキンの口上がその場の「名物」として定着しているのは、その独特の楽しさと、博打の奥深さを感じさせるからに他ならない。

 

人生と旅路(12)絶望と希望

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また選挙がはじまる。

周囲の人々の表情には、政治への熱意や希望の輝きは見られない。「俺一人が投票したところで、何も変わりはしない」。そう呟く若者たちの声が、現代日本の風景に溶け込んでいる。それが、この国の現状を写す鏡となっているのだ。

だが、そうした無関心こそが、この国の未来を閉ざしているということもまた事実だ。政治が停滞し、経済が沈滞するその陰には、国民の無力感が大きく横たわっているからだ。

国民が改革の必要性を叫んでも、その声は無視され、政治家にとっての利害関係者や特定の支持者たちの間でしか政治は機能していないのが現状だか、多くの国民の投票所に向かう足が止まるたびに、この国は一つずつ、変わる機会を逃し、更に望ましくない未来へと進んでいく。「俺が投票しても、何も変わらない」という、その諦観。だが、その一票が投じられない限り、変化は訪れない。

日本の未来が、保守という建前ばかりで、アメリカ追従へと流されていったのも、国民の目がその動きを追わず、投票所に向かう足を止めたから…とも言えるものだ。

小泉、安倍、そして岸田政権下で、庶民の生活は次第に二の次にされた。果たして岸田はどれほどの血税ウクライナへへ流したのか。「平和」なんて嘘っぱちで、真実はそれほど美しいものではないかもしれない。

それでも、絶望の中にこそ希望がある。哲学者オルテガの言葉を借りれば、「絶望する者が増えることこそ、唯一の希望なのだ」と。

選挙に行き、たとえその結果に絶望したとしても、その絶望こそが、俺たちを再び行動へと駆り立てる。現実に目を背けるのではなく、真正面から向き合い、その上で次の一歩を踏み出すことが、この国を再び動かす力になるのだ。

だからこそ、必ず投票所には行って欲しい。

味わいの旅(26)【和田鮨・新橋】

和田鮨・新橋

新橋の和田鮨。ここは立ち食いの形式でありながら、鮮度の良いネタが驚くほどリーズナブルな価格で楽しめる。

この店には二人の職人が働いているが、いつも俺は、背中が丸くなった年配の職人の方のカウンターに案内される。彼の手さばきは、その外見からは想像もつかない素早さで、一貫一貫を丁寧に握り、客の目の前に寿司を差し出す。

その動きに無駄はなく、まるで長年の経験がそのまま手に宿っているかのようだ。

俺のルーティンはまず日本酒を一杯頼み、刺身を数品味わうこと。刺身の新鮮さと冷えた酒の相性が抜群で、次第に食欲が増してくる。

そして最後に、握りを数貫。口の中でネタがほぐれ、酢飯とともに広がる味わいは、贅沢という言葉以上の満足感を与えてくれる。

そして何より驚くべきは、その価格だ。飲んで食べて、財布に優しい。それが、この和田鮨の最大の魅力だ。

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北海道でも美味しい寿司屋は数多く存在するし、立ち食い寿司の店もあるが、和田鮨ほど味とコストパフォーマンスに優れた店に出会ったことはない。だからこそ、上京した際には、和田鮨は欠かせない存在だ。

味わいの旅(25)日本海の絶景と石窯の香り【リップル・厚田】

3種のフンギ・厚田町のリップル

リップルといえば仮想通貨を思い浮かべるが、厚田のリップルはまるで別世界だ。

ここでは、日本海を眺めながら、石窯で焼かれたピザと味わうことができる。休日には行列が絶えないが、その待ち時間すら厚田の豊かな自然の一部として感じられるほどだ。

石窯の中では、広葉樹の薪が放つ遠赤外線によって、生地がじっくりと焼き上げられる。外はパリッと、中はもっちりとし、じんわりと水分が閉じ込められている。まさに、この薪の力が、石窯のなかで生地に魔法をかけているのである。

今回頼んだのは「3種のフンギ」。

舞茸、しめじ、エリンギが贅沢に使われ、ほんのり塩味が効いたキノコの旨味が、チーズのコクと一体となって調和を生み出している。

噛むごとに、キノコの風味が広がり、チーズと絡み合うその瞬間に、言葉を忘れてしまうほどの幸福感が口の中を満たす。

ピザの美味しさ、生地の香り、日本海の絶景――これらが交錯するリップルは、まるで五感がすべて開放されるような場所だ。

ピザを頬張るたびに、薪で焼かれた生地の芳しい香りが広がり、目の前に広がる大海原の絶景が、食事を特別なものに変える。

リップルで過ごす時間は、厚田方面への旅そのものに、新たな彩りを添える瞬間にほかならない。

味わいの旅(24)剣淵町の新たな味わい【世田谷下北ファーム・剣淵】

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俺にとって剣淵町は、かつてはただ車で通り過ぎるだけのことが多い場所だったが、吉野シェフが手掛けるレストランに出会ってから、その印象は一変した。

八王子で生まれ、父の影響で料理の道へ進んだ吉野シェフは、フランス料理店で修行の後、世田谷の下北沢に店をオープン。2020年に剣淵町へ移住した方だ。

今回、俺が食べたのは「知床鶏もも肉と季節野菜のグリーンカレー」。

パリッと焼かれた鶏肉の皮と、ふっくらしたお肉が、ピリ辛のカレーと絶妙に絡み合い、最後まで飽きることなく楽しめる一品だった。

この店がオープンして以降、剣淵町に立ち寄るのが楽しくて堪らなくなった。吉野シェフの手による料理は、まさに剣淵町を俺にとって特別な場所へと変えてくれた。