旭川の焼肉居酒屋「五衛門」。
年季の入った店内は、どこか昭和の面影を残しており、まるでタイムスリップしたかのような感覚になる。
店内は煙が充満しているが、その中で客たちの笑い声がBGMのように聞こえてくる。煙と客の笑い声…この空気感こそが「五衛門」ならではだ。
座敷に足を踏み入れると、微かに床が傾いていることに気付く。通常なら気になるかもしれないが、ここではむしろ、その歪みすらも 「 五衛門」の風情の一部だ。
手慣れた様子の店員が親しげに席を案内してくれるが、その店員の対応もまた、どこか心地良く、気がつくと「 五衛門」の空間に溶け込んでいる自分がいた。
「ホルモン、脾臓、タンをお願いします。」
まずは好物のホルモンだ。噛むごとに広がる旨みと、脂の甘さが口いっぱいに広がる。脾臓も柔らかく、しっかりとした食感が楽しめる。タンは程よい塩気が効いていて、シンプルながら一口で焼肉の醍醐味を感じさせる。
でも、驚くべきは、その価格だ。これだけの味を、こんなに安く楽しめるなんて、東京のような都会ではまず考えられないだろう。
また、旭川といえば男山酒造の地酒が、ホルモンと抜群のマリアージュだ。冷たい酒が喉を通るたびに、酔が巡って心地よくなる。
気付けば、時間はあっという間に過ぎている。2時間も過ごせば、服には煙の匂いがすっかり染みついてしまう。しかし、不思議とその香りさえも愛おしい。この匂いをまとって外に出ると、しばらくの間「五衛門」の余韻が続くようで、またいつかこの席に戻ってきたいと思わせてくれるのだ。
満足感に満ちた帰り道、夜風が心地よく、旭川の街灯が優しく照らす。焼肉の煙と酒に包まれた夜、心も身体も十分に満たされた。